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キトロロギストXの記録
激しく変化する昨今のもとで一生をカンキツ研究に捧げてきた老学者の独白を広く一般のカンキツ愛好家(キトロロマニア)に聞いていただきたくブログを開設しました。お閑な時にどうぞ目を通してください。
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スペインの最近のカンキツ生産

  スペインのカンキツ産業がこのところ好成績を収めています。コロナのパンデミックで、国内ばかりでなく、EU全体への供給が間に合わなくなっているのです。以前、2007年頃の動向をブログ記事としましたが(09/12/18)、最近の生産状況についてお知らせします。

spain生産推移
spain産地地名


1) 生産地が動いた
   生産地は、以前、7割程度がバルセロナ地方に集中していましたが、現在は5割程度に落ちました。より南に位置するムルシカやアンダルシア地方に栽培地が動いたのです。スペインの4840園地で、20ヘクタール以下の園地の43582ヘクタールが消失し、20ヘクタール以上の園地39015ヘクタールが主な園地になってきました。
   衛星写真では、一筆の小さいバルセロナ園地と、広大な園地のアンダルシア園地の違いがはっきりと認められます。バルセロナの樹齢が進み、クレメンチンマンダリンやナベリナオレンジから新しいマンダリンや新バレンシアレートという品種への更新も停滞したことが、園地移動を進めているものと思われます。

   生産量をみますと、2007年はオレンジ270万トン、マンダリン197万トン、レモン50万トンでしたが、2019年には、オレンジ323万トン、マンダリン183万トン、レモン89万トンとなりました。この変化は、同じようにEU諸国の供給国のイタリアの生産推移と大きな違いとなりました。

spain輸出量

2) 輸出が伸びた
   長い間、地中海沿岸の諸国は、EU諸国に対してカンキツの供給基地の役割を果たしてきました。どの国も生産量の半分程度は、輸出向けの生産を負ってきたのです。しかし、異常気象やコロナパンデミックや悪い経済事情、社会情勢などで、生産の不安定性が増していて、多くの国がこの責務が果たせなくなっています。

   その中で、スペインは2020年度オレンジ164万トン、マンダリン134万トンなど生産量の半量程度を輸出に回しています。新記録は、3月中に50万トンを輸出したことがあるようで、驚きです。日本のカンキツ生産量80万トンを考えると、うらやましい限りです。

spain畑の比較

3) 新たな問題点
   コロナパンデミックは、とくにEUのレモン消費を促しているようです。スペインの生果の輸出先は、ドイツ、オランダ、イギリス, フランス、ベルギーなどで、EU域内は48-72時間の輸送時間で済むという有利な立地にあります。さらに最近は、域外の国々からの引き合いもあり、90か国が輸出対象となっていて、安定供給に新たな対策が求められています。
   スペインは、水事情が許されると、カンキツの栽培面積を相当広げられそうなお国柄ですが、目途はたっていないようです。スペインカンキツ産業は、EUから世界に向けて動き出すのでしょうか。これからも注目してゆきたいと思います。


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カンキツとアゲハチョウの共進化

keihutyou-図鑑蝶

  今年も、アゲハ蝶の幼虫にカンキツ実生苗の新葉をことごとく食べられました。憎き昆虫ですが、世の中には蝶の愛好者が断然多く、みかんの若葉がないと絶滅すると聞くと可哀そうにもなります。我が家の周りには、この10年来、蝶、蝉、雀、白鷺などめっきり減りました。
  さて、ミカンと共存して進化してきたと思われるアゲハ屬(genus Papilio)は、どのような進化年代を過ごしてきたのでしょうか。研究業績をたどってみました。目前のアゲハ蝶は、チョウ目―アゲハチョウ科―アゲハチョウ屬―ナミアゲハ種になります。アゲハチョウ属(genus Papilio)には、200種以上の種(species)があり、日本にはナミアゲハなど11種が生息しているようです。

keihutyo蝶系譜図

1) DNA系統樹によるアゲハ属種の成立年代
  英国自然歴史博物館のSimonsenら(2011)は、アゲハ亜科の18属を使って、94の形質と7つの核遺伝子(5616bp)情報をパラメータにした系統樹を作成して、属種の分岐年代を推定しました。それによりますと、アゲハ屬がTroidini (キシタアゲハ族)と分岐したのは、53Mya(41-69)(5300万年前)と推定されました。カンキツ属がアタランチア属と分岐したのが30Myaでしたので、アゲハ屬の誕生がより先行していたことになりました。
  このアゲハ属の成立年代には、研究者の間でかなりの違いがあり、ミトコンドリアDNAと核DNA を使って行ったZakharovら(2004)の研究では、属成立を83-89Myaとしていて、65-35Mya期を亜属の成立期としています。これらの研究結果は、初期のアゲハ屬種が、カンキツ属植物と進化的に関係を持っていなかったことを示していました。

keihutyoアゲハ年代

2) ミカン科植物を食餌するアゲハ種とそれらの種成立年代
  200種類のアゲハ屬種で、ミカン科の植物(Rutaseae)を食餌するアゲハ種は、17種ありました(Zakharov,2004+1)。そこで、アゲハ属の分岐年代をルート83Myaとしたときの、各種の分岐年代を比較しましたところ、13Mya から35Myaの間に成立していました。この結果は、カンキツ属成立の30Mya と合致していて、アゲハ属とカンキツ属の共進化が成立していることを推察させました。   アゲハ属の分岐年代のルートを53Mya(シモンセン説)としますと、さらに年代がカンキツ屬先祖種の中新世末期の分化期に近づき、 同調して、中新世末期にカンキツ食餌のアゲハ種の分化が、集中していたことを推察させました。

keihutyo世界分布蝶

3) ミカン科植物を食餌する各アゲハ種の地理的分布      
  日本でみられるアゲハ属11種のうち、ミカン科のカンキツ、カラタチを食餌する種は、ナミアゲハ、クロアゲハ、カラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハ、オキナワカラスアゲハの5種でした。他の種類は、セリ科など多種の植物を食餌としています。
  世界に目を転じますと、アゲハ属200種のうちミカン食餌のアゲハ属種は、アジアに8種、アフリカに6種、アメリカに3種と棲息大陸を異にしていて、地理的隔離がみられました。オーストラリアと地中海沿岸国には、分布が知られませんでした。日本では、8つのアジア種のうち5種がみられますので、多様な品種が生まれる素地があったでしょう。McClure 2019によりますと、インドにはアゲハチョウ科89種がいるとしていますが、広くみられるミカン食餌種は、タミルアゲハPapilio paris だけでした。

  蝶の分類や種の認定(性的隔離)が、信頼性の高いことはよく知られています。中新世末期に種の分化をみたカンキツ食餌のアゲハ種が、カンキツの先祖種と同じ共進化をとげて、以降に各種の亜種やレースを分化しているところをみますと、性的隔離のないカンキツの種や亜種や品種のヒエラルキーを想定するうえで、参考になるものと思われました。



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カンキツの進化、その2

  カンキツの始まりが、地質年代の新生代古第三紀の終わりの漸新世期(3390―2303万年前)にあり(田中長三郎,1958、Morton, 2008)、また、主要な種の分化が新第三期始まりの中新世代(2303-533万年)に起こった(Wu,ら,2018)と推定できることを、先に述べました。そこで、さらに、その後のカンキツ多様化は、どのように進んだか研究成果をみてみましょう。

keihusin田中分布

  DNA解析による年代考証の手法(分子時計、分子系統樹統計学など)の知られていなかった時代に、田中が、インドなど世界各地の踏査のデータや、史実の膨大な資料に基づいて、カンキツの起源地と伝播の詳細な歴史を紐解いていますが( Species Problem in Citrus,1954 , Citrologia,1961 )、以下に、DNA解析からの主要な論文を紹介します。

keihusin-スペイン派系統樹

  スペインのコンピュータ生物学ライフサイエンスグループのCarbonell-Caballero ら(2015)は、34種類のカンキツの葉緑体DNAの系譜的分析を行い、系統樹の分岐年代を統計モデルで推定しました。オレンジのcpDNA は、塩基16万129個からなり、環状の配列に133の遺伝子をもっています。全塩基のうちの1565カ所の標識塩基(SNV)の在り方を、34種類のカンキツ間で比較しました。標識塩基の変異には、塩基の変換、挿入欠失、多塩基にまたがる構造変化などが知られました。各種類のこれらの突然変異の頻度をパラメーターにして、セベレニアを根とした系統樹を作成し、樹形や枝長に分子時計の概念を入れたプログラムで、枝の分岐年代を推計しました。

keihude先祖果実

  多くのカンキツから、シトロンー豪ライム群が分岐したのは、808万年前と推定されました。そして、739万年前には豪ライムがシトロンと分岐しました。また、375万年前には、ポメロ群が分岐し、サワーオレンジ、レモン、スイートオレンジ、ザボン、グレープフルーツを派生しました。ミクランサとメキシカンライムには同巣性がありました。

  また、339万年前に、イーチアンとマンシャン柑がマンダリンと分岐しましたが、初生柑橘にみられない大きな2つの欠失を伴っていました。ミクランサとイーチャンは、それぞれ別々の種群に位置していました。そして、今日マンダリンという種類は、58000年前という最近の誕生でした。そしてさらに、マンダリンは2つの系統に分かれていました。1つは、伝統的マンダリン種(traditional mandarins)で、スンキ、クレオパトラなどであり、2つは、モダンマンダリン(modern mandarins)で、ポンカン、オオベニ、ウンシュウ、クレメンチンなどでした。ただし、マンシャン柑マンダリンは、異常に欠失挿入の突然変異が少なく、ヘテロ性もパペダと異なっていましたので、独立したタクソンとしてあつかわれました。

  このように、カンキツの多様性は、異なった3つの時代区分(7.5-6.3Ma,Citron/Australian),(5.0-3.7Ma、Pummelo/Micrantha、Papeda/Mandarin),(1.5-0.2Ma、Fortunella,sour and sweet orange,lemon, mandarin )で発生した、3つのクレードとモダン種をもっていることを明らかにしました。これらの時代区分が、地質学の年代転換期におおむね相当していたことは、カンキツの進化、分化が、地球規模の乾燥、低温などの自然の淘汰圧で生じてきたことを、暗示しているようです。

keihisin系統樹田中
keihusin新系統樹

  この研究成果は、田中のカンキツの誕生から伝搬の方向に至る地理的考え方に、時代的考証を与えました。そして、豪州のライムが早い時代に独立した種として成立していたことなど、不十分であったことを教示しています。コンピュータに支えられた分子生物学のこれまでの解明には、対象のDNAの違いや種類の少なさなどで充分に解明されたとはいえません。種類の豊富な日本から詳細な情報が発せられることを期待しているところです。



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カンキツの進化、その1

  カンキツは、160属からなるミカン科(Rutaceae)のうちで最も進化した1属ですが、地球上にいつごろ誕生したのでしょう。その答えに、「カンキツ(genus Citrus)は、3000万年以前にインド国アッサム山麓に誕生した」とした田中長三郎氏の論文(1959)がみられます。

keihusinカンキツ亜連

  この時代考証は、米国カーネギ国立自然博物館のMorton,C.M.の行ったミカン亜科(Aurantioideae)のDNA解析による研究で支持されています(Morton,2008 )。カンキツ属がアタランチア屬と分岐したのが、2960万年前と推計されました。田中の推論は、インド国アッサム地方にカンキツの遺伝子の中枢があり、インド大陸がユーラシア大陸に衝突した年代(5000万年前)や豪州大陸の分離(3000万年前)など、南・北アメリカ大陸や豪州大陸に自生したカンキツがみられないことなどに論拠していました。
 3000万年の間に、現存の多様なカンキツがどのような進化をたどってきたのか、研究の成果をみてみましょう。


DNA情報に基づく分子進化
  これまで、ミトコンドリアや葉緑体のDNA、さらに、核DNAの塩基配列の多型を、各種のマーカーを使って系譜解析が盛んに行われてきました。それらの多くの結論は、供試した多数のカンキツは系譜的に数個の先祖種にしぼりこまれ、シトロン、ポメロ、マンダリンの3原種が先祖種として主に関わってきたことを指摘しました。多様なカンキツも1元的な系譜(monophyletic)とみなされました。

keihusinモルトん新

  米国カーネギ博物館のMortonら(2009)は、1つの核遺伝子(ITS座locus、746bp,)と形質に関係しない3つの葉緑体遺伝子(座、site)の多型性から、ミカン亜科(Aurantioideae)のカンキツ属を含む29属の系統樹を作成し、分子系統解析を行い、各属の成立年代を推計しました。
  推計では、ミカン亜科の進化は凡そ1億800万年前と推計され、ジュラ紀が終わり(1億4000万年前)、白亜紀中期に始まりました。その後、5回の分岐の年代を経て、新生代の末期の古第三紀漸新世の2960万年前にカンキツ属が誕生、派生したとしました。

keihusin雲南地層
keihusinWu系統樹SNS


  また、米国フロリダ大学のWuら(2018)は、DNA全塩基配列の読み取りの終わっているカンキツ30種類を含む類縁関係の60種類を供試し、有機酸関連酵素をコードする遺伝子のエキソンのcSNP座の24塩基について点変異分析を行い、10種の純粋種を抽出しました。そして、この10純粋種の誕生の年代考証を行いました。
  年代推定には、中国雲南省の中新世代(11.6Ma ―5.3Ma)晩期の地層から見出された、カンキツ新種(Citrus linczangensis)の葉の化石(Xieら、2013)のDNA情報をもとに、外属セベレニアをルートにした新たな系統樹を作成して行いました。そして、分子系統樹の進化距離を最尤法で求めて、各純粋種の分岐年代を推定しました。その結果、カラタチは900万年前、その他(マンシャン柑、イーチャンパペダ、シトロン、ブンタン、ミクランサ)は800-600万年前、豪ライムは400万年前としました。日本の唯一の野生種のタチバナは、200万年前頃としました。この結果は、カンキツ新種の誕生に特定の年代が関わったことを示していました。

  Wuらは、新種の誕生にアジアのモンスーンの後退という気候の変動をあげました。確かに、古気候学や古生物学の研究成果は、ヒマラヤ造山運動による山塊の上昇が、大気流の変換によるアジアモンスーンの後退と北アフリカにかけての乾燥化を引き起こし、CO2の希薄による寒冷化を招いたとし、1000万年から500万年の間は森林の縮小と草原の拡大という地球規模の生態系の変革期であったことを示しています。カンキツだけでなく、生物の膨大な新種の誕生をみた年代でした。猿人の進化の開始期でもありました。


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カンキツの果肉ベシクルの種類間差異

vesicledeベシいろいろ

 果実が果肉ベシクルをもつことは、カンキツ屬(genus citrus)の植物を示す大きな指標の一つです。しかし、種類ごとのベシクルの数など詳細な計測例が少なく、形態情報に乏しいのがこれまででした。そこで、10年来測定してきたデータを整理し、ベシクルの種類間の差違からどのようなことが言えるのか、検討してみました。

vesicledeべし重比較

vesiclede肉とべし

(1)1ベシクル重の種類間の差違
   果実のじょうのう(袋)に含まれるすべてのベシクル数を測定し、10g当たりに換算した数値をベシクル密度と呼びました。また、袋重をベシクル数で除した値を、1個のベシクル重としました。種類の間で、この1ベシクル重がどの程度異なるか、比較しました。供試した22品種の間で、晩白柚の106mgのベシクルが最も重く、大きく、また、スダチ(緑果)の14mgのベシクルが最も軽いものでした。
   そこで、各品種の果肉の重さと1ベシクル重との関係をみましたところ、弱いプラスの相関関係がみられましたが、甘味品種に果肉の重さの割には、1ベシクル重の重い品種が多いことを知りました。明らかに、ベシクル比重は種類間で異なっていました。

vesiclede短柄率と糖度で

(2)短柄ベシクル数率の品種間の違いと糖度
   各品種の短柄ベシクル数率と糖度とのあいだには、プラスの相関関係が知られました。個々の果実と同様に、品種のあいだでも、果実への糖集積には短柄ベシクルと長柄ベシクルの分化数の在り方が影響しているようです。ポストハーベスト期間にベシクルの糖の移動が知られましたので、移動のしやすさなどさらに検討する必要がありそうです。

vesiclede代表系譜

(3)ベシクル関連の事項で品種をクラスター化してみると
   ベシクル関連の形質として、①1ベシクル重、②10gベシクル密度、③短柄数率、④果重、⑤果肉重、⑥糖度、⑦1果ベシクル数の7項目の数値の平均値を使い、晩白柚はじめ15在来品種のクラスター分析を行い、樹形図を作成しました。
   その結果、各品種は、1群;晩白柚、2群;シトロン、ユズ、日向夏、3群;オレンジ、ウンシュウなど5種、4群;ネーブルと紀州、5群;甘夏など4種にと、クラスター化できました。類縁関係をみますと、なるほどと思わせる枝項が多かったのですが、3群の枝項にレモンが位置したことには違和感がありました。形質項目に酸度を入れて再度分析を試みる必要がありました。

   田中の分類に対応させますと、大略、2群は色素着色のないレモン区、1群と5群は 時にアントシアニン色素の着色品種を含む白色のザボン区、3群と4群はカロチノイドの黄色着色のダイダイ区とミカン区に類別できました。なお、カロチノイドの含有量をみると、4群のウンシュウは3群のオレンジの2倍以上で、濃厚でした。

vesiclede田中分類で

  人にとって、カンキツの果肉のベシクルは味覚の中心ですので、その評価と改善が大切でしょう。さらにまた、今回のベシクルのデータは、カンキツの分類に形態情報として役立つことを示唆しました。カンキツのDNA系統樹も多くみられるようになってきましたので、形態的分類に分子的分類を取り込んだヒトの使いやすいシステムができることを期待しているところです。



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