キトロロギストXの記録
激しく変化する昨今のもとで一生をカンキツ研究に捧げてきた老学者の独白を広く一般のカンキツ愛好家(キトロロマニア)に聞いていただきたくブログを開設しました。お閑な時にどうぞ目を通してください。
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果実の軟化のコントロール
 成熟ホルモンといわれる気体のエチレンが、果実の軟化を促すことは、よく知られています。また、果実のエチレン感受性は、果物によって相当異なります。バナナ、アボカド、マンゴー、ドリアン、西洋ナシ、リンゴ、モモ、スモモ、ビワ、キウイフルーツ、メロン、トマトなどの果実は、成熟するのにエチレンが必要です。
koudok果肉軟化

 一方、カンキツ、ブドウ、イチゴなどは、エチレンに感受しません。エチレン感受性の果物では、エチレンの内生的生成能を刺激したり、外部からエチレンを与えたりして、果実の軟化をコントロールして、食べごろの果肉の硬さに調整することができます。どのようにして果肉軟化をコントロールしてきたかの事例を紹介します。

koudokエチレン軟化

1)エチレン生成と果肉硬度の変化
 収穫後、エチレン感受性の果物では、果肉のエチレン濃度が、果肉の軟化とともに、急激に高まります。エチレンは、アミノ酸のメチオニンを前駆物質として、1-アミノシクロプロパンー1-カルボン酸(ACC)を中間生成物質として生成し、さらに、エチレン生成酵素による酸化分解を経て発生します。この生成経路の進行には、20℃程度の温度と酸素を必要とします。マンゴーやドリアンでは4.5ppm、アボカドでは140-180ppm程度の内生エチレン濃度が知られました。

koudokエチレン処理

2)果実軟化へのエチレン処理効果
 果実を高いエチレンガス環境に数日間置くという、エチレン処理を受けた果実は、速やかに果肉の硬度低下を示しました。その際、果物によって、処理時間、処理濃度などをうまく選択する必要がありました。
 キウイフルーツでは100ppm程度、西洋ナシでは250ppm程度で処理し、数日後に2-3㎏の食べごろの果肉硬度が得られました。それぞれの品種や系統の違いや、果実の熟れ具合が、エチレン感受性に関係していましたので、エチレン処理法のそれぞれのマニュアルを得る必要がありました。エチレン処理法は、キウイフルーツやバナナなど多くの果物で、すでに実用化されました。

koudok吸収剤

3)果実軟化へのエチレン除去効果
 果実の貯蔵環境から、エチレンガスを取り除くことで、果実の軟化を遅らせることができました。はじめは、細かい穴を持つ活性炭などが用いられましたが、エチレンの吸着寿命が短かったために、活性炭に臭素酸カリと希酸を処理したエチレン吸着材などが開発されました。リンゴでは、防菌、防カビを目的に、ヒノキチオールとエチレン吸着材が併用して用いられました。また、エチレンを過マンガン酸カリで反応分解する方法も採られました。これからも、ガス吸着法や分解法が、種々考案され、実用化されるものと思われます。

koudokヒート衝撃

4)果実軟化への温度処理効果
 収穫した果実の軟化が、高温あるいは低温で処理したのちに冷蔵しますと、改善される場合があります。その際、50℃くらいの高温で短時間処理(ヒートショック)が適応できた例や、氷水につける低温ショックが適応できた例など、多くの報告がありました。
 例えば、マンゴー果実を38℃で3日間処理して、25℃で保蔵しますと、果実からのエチレン発生が抑制され、果実軟化を相当遅らせることができました。ヒートショック現象は、1936年に、初めてグレープフルーツの冷蔵効果として指摘されました。収穫時期にはみられない極端な温度への遭遇が、エチレン代謝関連の酵素や細胞壁膜関連の酵素の変性や、さらには、新たなタンパク質(heat shock protein)の生成を誘導し、ポストハーベスト寿命の延長に貢献してきました。

 果実軟化の問題は、果実輸出と切り離せず、いまだに、釈迦頭など多くの熱帯果実ではマニュアル化できていません。いろいろな果物での軟化コントロール技術の革新的進展が望まれています。
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クネンボの来た道
kunennbo庭園

 クネンボ(九年母)は、ウンシュウミカンに近い皮の剥けるマンダリンの一種です。さきごろ、紅葉見物に浜離宮恩賜公園を訪ねましたところ、園道にクネンボの果実が3個チョコンと展示してありました。そして、背後の黒松に寄り添って、豊かに実の着いたクネンボの木がありました。案内文には、8代将軍徳川吉宗のころ、1729年にベトナムから象を導入し、園内で飼育していた時に、クネンボを餌にしたとの記録があり、また、1791年には、11代将軍徳川家斉が、お茶屋で昼食にクネンボを食したとの記録が残っているとか。クネンボと浅からぬ縁があったことが、紹介してありました。
 
kunennboくねんぼ展示

 クネンボを象が食べたんだ?、動物は丸ごとカンキツ果実の食餌は難しいのだが、おなかは大丈夫だったかな、余計なことを考えながら、果実を手に取ってみました。クネンボを食べたヒトは、ほとんどないと思っていますが、いかがでしょう。原産地とされますインドシナ半島では、今でも栽培がみられますが、マレーで、Djerock djepoen 、Jeruk garut, Jeruk siam, タイで、Som kaeo, ベトナムで、Cam s'anhと同種異名で呼ばれています。アメリカには、1880年にカリフォルニア州リバーサイドに、ベトナム国サイゴンからKing of Siamの名で導入されました。耐暑性があり豊産性で、ネーブル大の皮の剥き易いマンダリンとして注目され、キングの名で栽培されました。しかし、日本からのウンシュウミカンの導入後は、キングの栽培はみられなくなりました。
 
kunennbo来た道
kunennbo果実
kunennbo種子

 クネンボの日本への伝来は古く、16世紀室町時代後半に伝播したようです。1848年の「桂園橘譜」(岡村尚謙)には、「阿部橘」として記載されていました。のちの文献には薩摩蜜柑とあり、沖縄では羽地(はねじ)蜜柑として栽培されていました。田中長三郎氏のクネンボ伝来の考証では、原産地とされるインドシナから南支を経て、琉球、薩摩と伝ったとされ、南支の浙江省あたりでは本地廣橘、沖縄でクニブ、鹿児島でクネブ、のちクネンボと訛言葉として定着したようです。明治以降は、ウンシュウミカンにより駆逐されましたが、それ以前は、小蜜柑、柑子とともに、九年母が日本の皮の剥ける最も大きなマンダリンとして、栽培されていました。

 クネンボは、ウンシュウミカンより多くの熱量を必要としますので、本来の大きさをした果実の生産が日本でできていたかどうか定かでありません。ウンシュウミカンと比べて、果皮が厚く、粗い果面で外見が悪い、果皮にテルペン油の臭いがあり、種が多く含まれているなど品質的に劣っています。また、ハンドリングで傷がつきやすく、輸送の困難な果実です。しかし、カリフォルニア大では、キングの大果で皮が剥き易い性質に注目して、交雑育種の片親に使われました。その結果、Kinnow, Wilking, Encoreなどの品種が作出されました。このうちのアンコール(Encore)は、日本の交雑品種「津之輝」の片親となっていますので、クネンボの血が継承されていることになります。

kunennbo-松

 クネンボが浜離宮で健全に生育しているのをみて、よく冬を幾度も越せたものと感心しました。そういえば、クネンボ、キングマンダリンの学名はCitrus nobilis といいますが、nobilisとは高貴なを意味します。1654年に東京湾を埋め立てて以来、代々の殿様や皇室に愛された庭園に植えられ、相応しい呼称の学名をもらったカンキツといえそうです。また、正門脇の都内最大級の「三百年の松」は、徳川家宣の手植えとされていますが、見ごたえのある樹姿をしていました。

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果肉の硬さを測る
 果肉の硬さを測るために、貫入抵抗値を求めようとしますと、針(圧子)の先端の太さ(面積)や、圧子が果肉をつき抜ける速さの違いが問題になります。このために、圧力が一定で動く動力計ダイナモメータ(dynamometer、 応力ニュートンN)を必要としますが、その貫入値を用いた圧子の面積で除した値を、硬度(N)としています。

koudo硬度計

 しかし、このような装置はポータブルでなく、高価なために、これまで多くの場合、市販の果実硬度計を使って、果肉の硬度として、データを相対的に比較してきました。果実硬度計は、一定面積の圧子(プランジャー)が数種類用意され、これらを果肉に突き刺した時の最大の圧力(kg)を求め、1平方センチメータ当たりに換算して(kg/cm2)、その値を便宜的に硬度としてきました。果実の種類ごとに、用いてきた測定器具(マグノスメラー、ユニバーサル硬度計、レオメータ、カードメータ、ペネトロメータなど)が異なるために、データの正確な比較は難しいのですが、とりあえずまとめてみました。

koudoスケール

1)果実種類間の果肉硬度の違い
 果樹産業では、消費者に食べごろの果実を届けるために、完熟果実になる前に収穫を行っています。収穫した果実は時間とともに必ず柔らかくなりますので、輸送日数などを考えて、収穫適期を求めてきました。そしてその際、果肉の硬度(種類によっては果実)が、収穫適期の目安を得る数値として測定され、利用されてきました。
 例えば、外観からは難しいキウイフルーツでは、硬度が1.5㎏程度で、リンゴふじでは、7㎏前後で収穫しています。収穫適期頃の硬度を果物ごとにみますと、果肉の硬度は10㎏/cm2以下にありまして、これ以上の硬さはヒトの口に合わないようです。また、最近は、食行動に世代間の差があるようで、若い世代には、3kg程度のはりのある果肉より、1kg以下のメルテイな食感が好まれるようになっています。

koudo低温効果

2)貯蔵果実の果肉硬度の変化
 収穫した果実は、時が経つにつれて柔らかくなりす。この軟化のスピードは、種類によって相当異なります。しかし、どの果実でも、低温で保つと、果肉の軟化を遅らせることができます。冷蔵庫に入れられる果実なら、軟化する前に0℃前後で保存できますし、冷蔵庫に入れられない、熱帯果実やキウリなどチリング傷害の恐れのある果実は、8℃前後で保存しています。
 普通、冷蔵後の果実を常温に移した場合、果肉の軟化はより速やかに始まります。軟化の難しい西洋ナシの場合、10日ほど低温貯蔵して置いたのち、室温に移して15日位に食べごろになります。その時の果肉硬度は、8㎏程度から1㎏程度に低下していました。

koudoプロトペクチン

3)果肉の軟化の生理的メカニズム
 果肉の軟化は、細胞壁膜の構成成分の生化学的な変化で起こります。すべての果物で、同じようなメカニズムで軟化が起こっているのではありません。しかし、これまでの研究で最も注目されてきたのは、ペクチンの変化でした。ペクチンは、ガラクツロン酸を基本単位とした、長鎖の5-20万分子量を持つ多糖類です。果実が若い時には、ペクチンはカルシウムや糖やセルロースなどと結合していて、水に溶け出さないプロトペクチンとなっているのですが、成熟してくるとプロトペクチンが、酵素作用で水溶性のペクチニン酸に変化します。
 このペクチンの低分子化を進めるプロセスは、成熟ホルモンのエチレンが細胞壁膜と接触することで、ポリガラクツロン酸酵素などいくつかの酵素の活性が高まるためでした。このような膜構造の変性メカニズムは、エチレン感受性の果物に共通していました。
 
koudo酵素

 果肉の硬度測定は、マーケットを有利に進める指標を得るための、収穫適期の判定に役立つばかりでなく、ポストハーベスト終期のモニタリングにも貢献します。さらに、育種選抜の一形質として、データを利用できます。これからは、汎用な硬度計の普及と、果物共通の硬度測定法の開発が望まれます。

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早生温州果肉の側壁膜の解剖
sokuhewase果実

 10月に入って、早生温州の出荷が始まりました。早生温州には、宮川早生、興津早生、原口早生、田口早生など多くの系統品種があります。ハウスみかんの多くは、宮川早生を使って施設栽培されています。露地栽培の早生温州の側壁膜の解剖を試みました。

sokuhewase横断面
sokuhewase厚さ新

1 )袋の側壁膜の厚さ
 露地栽培の早生温州果実の側壁膜の厚さは、50から200マイクロメータ(μm)ほどあり、部位によってかなりの違いがありました。膜の周辺の縫合部で厚くなっていました。そして、ハウスみかんと同様に、5から15の棒状細胞の層からなっていました。

sokuhewase外層
sokuhewase内層2
sokuhewase細胞直径

2 )袋の側壁膜の構成細胞
 側壁膜は、直径が10-20 (μm)、長さが100-200μmの棒状の柔細胞で、すべて構成されていました。そして、側壁膜の外表皮側の外層の棒状細胞と、ベシクル側の内層の棒状細胞の違いは、やや内層の細胞が太く、短いものでした。細胞間隙はなく、すべての細胞が原形質と核を持っていました。

sokuhewase内層蝋

3 )袋の側壁膜からの分泌物
 側壁膜の外表皮から、脂肪物質のクチクラが層状に分泌していました。さらに、蝋物質(ワックス)を多く析出していて、内層や内表面に特に多く析出していました。内表面にはクチクラ層はみられませんでした。
 袋の側壁膜は、このような分泌物質と棒状細胞層で、ガスや液体の透過を許さない堅い膜となっていることが判明しました。これらの解剖観察の結果からは、銘柄産地の露地栽培の早生温州と、ハウス栽培の宮川早生の側壁膜の構造上の大きな違いを、指摘することはできませんでした。

sokuhewase鶴厚さ

4 )産地間の相違
 上のような観察結果は、和歌山県有田産のゆら早生や愛媛県宇和産の宇和のみかんから得られたもので、すべて袋ごと食べられる良品質の果実の所見でした。そこで、東京産の袋ごと食べにくい早生温州と比較しましたところ、側壁膜の厚さが2倍ほど厚いものでした。袋ごと食べられる厚さの限界は、100μm程度にあるように思われました。側壁膜の形態の産地間差異があることが、解剖所見として明らかでした。さらに、膜の硬さなどの違いを、検討する必要がありました。
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果肉の細胞壁膜の化学成分の違い
seniいろいろ果実
 
果肉の細胞壁膜は、セルロース、ヘミセルロース、ペクチン、リグニンなどの化学成分で成り立っています。それらの違いは、細胞壁膜のネット骨格構造のミクロフイブリルを構成しているセルロース、セルロースを結び付けているヘミセルロース、細胞壁膜を堅くするリグニンであり、いずれも水に不溶性です。一方、細胞と細胞を結合しているペクチンは水溶性です。これらの化学成分の含有割合の違いが、果肉を食べた時の食感に影響してきます。木材はほとんどリグニンで、硬くて食べられません。また、これらの成分は、すべて植物性食物繊維になります。果実の種類の違いで、どの程度異なるかをまとめてみました。

seni種類間

1)熱帯果実の種類間の違い
 21種類の熱帯果実で、食物繊維の最も多かったのは、果肉新鮮重100gあたり6g持っていたグワバでした。平均的には2g程度持っていましたが、マンゴーは1g程度で、思いのほか果肉には少ない含量でした。

seni種類温帯

2)温帯果実の種類間の違い
 18種類の温帯果実で、果肉には、最大のイチジクが新鮮重100gあたり5g持っていました。平均的には2g程度で、熱帯果実のそれと変わりませんでした。最も少なかったのはブンタンで、0.5g程度で極めて少ない量でした。

seni種類成分

3)種類間の化学成分の違い
 果肉の化学成分含量の違いを、ウンシュウミカン、ヨウナシ、ニホンナシ、リンゴで比較しました。リンゴとナシにはへミセルロースが多く、ミカンにはペクチンが多いという特徴がありました。ヘミセルロースは、マンナン、ガラクタン、フラクタン、ウロン酸などを成分としていますが、これらはいづれも消化不能の炭水化物です。

seni石細胞ナシ

 ナシには、リグニンが多く、リグニンは果肉に含まれる石細胞成分となっています。ナシのじゃりじゃりした食感は、この石細胞塊の歯当たりのせいです。しかし、石細胞の密度と果肉の硬度との間には、必ずしも相関関係はありませんでした。果肉のどの部位に石細胞が多く分布しているかや、石細胞塊の大きさなどが、硬度や喉越しの問題のようでした。

seniカンキツ成分

4)カンキツ種類間の成分の違い
 果肉の化学成分含量の違いを、ウンシュウミカン、ダンシータンゼリン、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、マーシュシ―ドレスグレープフルーツで比較しました。カンキツ果肉細胞の化学成分は、主にベシクル膜(pulp)にあたりますので、その違いは果肉の食感の違いを齎すものと思われます。ベシクルの柔らかいミカンは、極めて高いペクチン含量を示しました。また、グレープフルーツ、オレンジは、比較的高いセルロース含量を示しました。ベシクル膜には、硬さを与えるリグニンがいずれも少ない量でした。
 
  周知のように、ヒトにとって、食物繊維は、炭水化物、脂肪、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどとともに、6大必須栄養素の一つになっています。その必須としての効能については、以前ブログ記事(カンキツの食物繊維の話;09/08/23)としました。植物細胞の細胞壁膜の成分は、クチクラや蝋物質(ワックス)などの細胞からの分泌物とともに、膜の化学成分の含量や組成の違いが、果肉の食感を左右しているものと思われます。
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